ホログラフィーの原理

さて、今回はいよいよ3次元画像に関する序論です。

3次元画像にも様々なものがありますが、現在よく知られているのはホログラフィーです。 科学博物館で見られる立体写真の多くはホログラフィーによって得られたホログラム画像です。 もっと身近なものでは、我らの日本銀行券にある虹色のシールがそれです。

一方、筆者が専門で研究しているのはインテグラルイメージングと呼ばれる技術です。 たぶん初耳の方が多いと思いますし、その知名度の低さに私は泣きそうです。

今回はまずホログラムについて説明し、次回インテグラルイメージングについて説明します。 どちらも共通することは、光の波の3要素の最後である位置(位相)をどのようにしてとらえるかにかかっています。

復習:光の波の3要素

詳しくは写真の原理を参照

  1. 波の大きさ(振幅): 光では明るさに対応します
  2. 波の長さ(波長): 光では色に対応します
  3. 波の位置(位相): 1波長内での位置を示す指標です

一般的なカメラでは明るさと色までしか記録できません。

ホログラフィー (Holography)

ホログラフィーは光の位相を干渉縞という模様に変換することで記録します。 ここではそれを感覚的に理解するために、池に投げた2つの石AとBを用いて説明しましょう。 ただし、AとBの石は全く同じものだったとします。 池に2つの石AとBが投げ込まれてできた波紋 このとき、図からAとBのどちらの石が先に着水したかわかるのではないでしょうか? なんとなーくAな気がしません? このなんとなーくを言語化すると、「波紋は時間が経つほど広がるから」でしょう。 光の速度は一定なので石が光子だったとすると、着水順はそのまま光の発光位置、つまり位相を示します。 これは言い換えれば、波紋から位相がわかることを意味します。

どうやって記録するのか

では実際に光の波紋を記録する方法を考えてみましょう。 ここで先程の図を見ると、いかにも説明したげな赤い点線がありますね? この赤い点線は波が干渉(強めあったり弱めあう)してできる模様の位置を示しています。 実際に池を光センサとすると、波を2つに分離して記録するわけではないので、 記録可能なものは赤い点線のみ。これが冒頭で説明した干渉縞と呼ばれるものです。 干渉縞はAとBの波紋から得られるので当然、干渉縞が位相を示すことも確かです。 ようやく人類は光の位相を現実的に得る方法が分かりました。今夜は宴です。 干渉縞 …ここから位相を予想するとか、なんかちょっと無理そうじゃね? と思った方は極めて健常な思考の持ち主です。ぜひ政治家になって日本を良くしてください。 そうです、無理というよりこの干渉縞を与える波のパターンは何種類も存在するのです。 つまり干渉縞から位相を予測するにはある拘束条件が必要なのです。 その条件とは干渉縞を作る片方の波が既知であることです。 ホログラフィーの世界ではそれを参照光と言います。

この参照光が既知であるという条件は太陽のような自然光(複数の周波数が山のように含まれる光)より、 レーザーのような単一の周波数を持つ光源が適していることを意味し、ホログラフィーにおける制約とも言えます。 ホログラフィーの記録装置 上の図は一般的なホログラフィーの記録装置の概略図です。ビームスプリッタはレーザー光を2つに分離する装置です。 この記録装置ではレーザー光を2つに分離してイメージセンサ上で干渉させます。 着目すべき点は光の通り道の長さ(光路長)が2つの光で異なる点です。 光路差 この光路の違いは池で例えるとAとBの石にそのまま対応します。反射光は先に着水したAの石、参照光はBの石です。

ホログラフィーの長所は完全な3次元映像を高解像度に記録できる点にあります。 その情報量はステレオカメラなどとは比べ物になりません。 3Dディスプレイ技術としても優秀で、将来的にはホログラムディスプレイに移行するでしょう。 一方欠点としては、やはりレーザー光や特殊な感光体が必要なことが挙げられます。 レーザー光は単一の周波数しか含まないため、フルカラーの3次元映像には最低でも3回撮影が必要であったり、 3色のレーザー光を用意する必要がある手間とコスト、あるいは参照光がどうしても得られない状況もあるでしょう。 他にもスペックルノイズと呼ばれる、レーザーに起因する独特の粒状ノイズが存在することなど、解決すべき部分はまだ多い分野です。

まとめ

  • ホログラフィーは光の位置(位相)を干渉縞で記録する
  • 干渉させる2つの光のうち片方は既知の光(参照光)である必要がある
  • 干渉光の記録のためにはレーザー光を使用する必要がある
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